日本マンガブームの仕掛け人として
マンガ編集者を育てていきたい
グエン・ティ・ビック・ハー さん
キムドン出版社/コミック本編集委員長

ダン・カオ・クオン

メディアイベントの開催を通して『ワンピース』、『ポケットモンスター』、『ワンパンマン』などをベトナムでヒットさせた立役者の一人ダン・カオ・クオンさん。コミック・マンガ編集者として可能性に富んだ日本のマンガを探し、版権を積極的に取得しながらベトナムでのマンガ人気に貢献し続けている。

 

幼少期からのマンガ好きが高じて
マンガ編集者に

多くのベトナム人の子どもと同じように、クオンさんは小さな頃から『ドラえもん』や『ドラゴンボール』などの日本のマンガを読むのが大好きだった。お金がなかった当時はマンガを借りるしかなく、新刊が出るたびに真っ先に借りに走った。マンガの世界でしかありえない想像を超えたストーリーに魅了されたためだ。

「ジャーナリズム・コミュニケーション学院で編集を専攻してから現在まで、マンガ編集の仕事が大好きです。子どもの頃に夢見たように毎日マンガが読めるのが嬉しいですね」

大手出版社キムドン社で大好きな仕事に就いたクオンさんだが、編集を学んだとはいえ、ベトナムにはマンガ編集に関する専攻がないため、最初は少し戸惑ったという。出版の成功の難しさは、編集作業のだけに限られているわけではないからだ。

「最も難しいのは、読者、出版パートナー、著者の要望のバランスを取ることですね。読者はマンガのアイテムの収集やイベントにも参加したい一方で、日本の出版社から購入できる版権上の限界があり、マンガ家からの要求にも応えなければいけません。また、出版のタイミングや、若者が手に取りやすい価格の設定も慎重な検討が求められます」

仕事で壁にぶつかったとき、クオンさんは尊敬するマンガ家の藤子F・不二雄さんの話を思い出す。

「キムドン社が正式に著作権料を支払い出版許可を得たいと申し出た時に、藤子F・不二雄さんは『そのお金をベトナムの貧しい子どもたちに使ってほしい』とおっしゃったことを先輩から聞きました。それが奨学金制度『ドラえもん教育支援基金』の始まりでした。この話を思い出すことで、『ドラえもん』のような素晴らしい作品をベトナムの読者に届けたいという初心に立ち返ることができるんです」

 

 

マンガ編集者としての
日本との特別な関わり

マンガの出版に携わることで、クオンさんは日本でマンガ博物館を訪れることもできた。藤子F・不二雄ミュージアムを訪れた時は、藤子・F・不二雄プロの経営者から直接、藤子・F・不二雄さんの人生やマンガ制作の過程などにまつわる心温まる話を聞くことができた。

また、日本の発行元であるパートナー出版社を訪問することも、クオンさんにとっては仕事上での「役得」だ。

「パートナーの方たちは、私のように子どもの頃からマンガに親しんでいる編集者やキムドン出版社にマンガを任せられて安心だと言ってくれます。そういった励ましの言葉が、仕事へのモチベーションをさらに高めてくれました」

作業の締切を徹底して守ったり、作品の細かいディテールにまで気を配ったりするなど、日本の出版社の真剣な仕事ぶりを目の当たりにし、クオンさんは質の高い原稿を期限内に読者に届けることの大切さを再認識し、より努力しようと決意を新たにした。

 

マンガ文化発展のために
ベトナムでマンガ編集者を育てたい

マンガの出版に加え、クオンさんは各メディアでの積極的な出版プロモーションやマンガオタクが集まるイベントなどを通じて、ベトナムでの日本マンガブーム作りに力を入れている。

さらに現在、クオンさんとその同僚たちは、漫画家・馬場民雄さんのベトナムを舞台にしたマンガプロジェクト『ソンゴール!/Son, Goal!』を、角川出版社とキムドン出版社の共同制作により進めている。さらに、日越外交関係樹立50周年に向けて、2023年夏に発表する予定のマンガプロジェクトも進行中だ。

「日本にいるベトナム人読者との交流イベントや、日本のマンガ家をベトナムへ招待するなどの活動にも取り組んでいます。ベトナムのマンガ文化がさらに発展していくためには、マンガを専門に扱う編集者の育成が非常に重要だと考えています。専門的なカリキュラムを徐々に構築し、マンガ編集に興味を持つ若者を育て、その面白さを伝えていきたいと考えています」

 

ハノイのジャーナリズム・コミュニケーション学院で修士(出版)を取得。キムドン出版社で10年間コミック・マンガ編集者として活躍し、現在は同社のコミック本編集委員長を務める。出版に加えて多くのマンガイベントを開催するほか、大学の出版学科などで教鞭を執る。

 

取材・文/Sketch Co.,Ltd.