屈託のないベトナムが
性格も人生も変えてくれた
グエン・ティ・ビック・ハー さん
YouTuber/女優

中谷 茜理
(なかたに あかり)

チャンネル登録者数17万人を超える「アンカリルーム/aNcari room」で、ベトナムの人々から熱烈な支持を受けるYouTuberの中谷茜理さん。国民的作曲家を題材に2022年に公開された『エム・ヴァー・チン/Em Va Trinh』で女優としてベトナムの銀幕デビューも果たした彼女に、ベトナムへの思いを聞いた。

大学での親友との出会い
気がつけばベトナムが近くにあった

日本人と外国人留学生が共に学ぶ立命館アジア太平洋大学。そこで出会った親友がベトナムから来た留学生だったことを機に、中谷さんとベトナムの繋がりが始まった。
「ルームシェアをしていたベトナム人の親友とたまたま相性があって、彼女の里帰りに同行したことを機に、ベトナムに興味を持ち始めました」
当初はベトナムに大きな思い入れがあったわけではなく、まずは住んでみたいと思っていた程度。流暢に日本語を話し、周囲と良い関係を築いていた友人を目の当たりにしていたため、大学卒業後はベトナム行きを決め、語学の習得から始めた。ホーチミン市の語学センターに入学してベトナム語を学ぶと同時に、何か自分の中で積み上げる経験も欲しいとYouTubeを始めた。
「仕事でなくベトナムに住むことは珍しいと思い、それをシェアできればと作り始めました。最初はベトナム語が話せなかったので日本人を対象にしていましたが、つたないベトナム語で作った回のウケが良くて。次第にベトナム語を使った動画がメインになっていきました」
暮らしの様子や語学を交えながらベトナムや日本をテーマにしたチャンネルは、在住日本人はもとよりベトナムの人々からも数多く視聴され、すぐに人気に火が付いた。思いがけないメッセージを受け取ることもあった。
「アメリカ在住のベトナム人の方からいただいたメッセージが心に残っています。『これまでベトナムに興味を持っていなかったけれど、動画を見て自分のルーツに初めて興味を持った。そして、この夏初めてベトナムに行きます』と。私の動画でその人の考え方が変わったと聞いて、とても嬉しかったですね」

 

厳しくも温かいベトナムの家族
精神的な充実が活動の糧に

ベトナム語での動画制作は楽しいものばかりではなかった。最初は少しベトナム語を話すだけで褒めてもらえたが、以降は逆に間違うことが怖くなり、ベトナム語だけで話さないようにした時期もあるという。
「でも、ベトナム暮らしを始めた際に3年間ほど居候させていただいた友人の家族が、本当の家族のように慕ってくれて。間違いも遠慮せず指摘し直してくれるので、語学の上達にとても役立ちました。今はお仕事で使う機会も増えているので、少しずつ改善してきているかな、と思います」
実は日本では正解・不正解にとらわれ、間違いを恐れる消極的な性格だったという中谷さん。しかし、家族のようなベトナムの人々の距離感の近さやチャレンジを恐れない国民性に触れ、「周囲の目を気にする必要はない」と、精神的にも満たされた。

 

両国のより良い関係を目指し
心が繫がるお手伝いを

映画へのチャレンジも「大きな自信になった」と話す。就職をせずベトナムに来たことから、社会の中に居場所がないと引け目を感じた時期もあったが、周囲の支えもあり「できるものは何でもしよう」と挑戦。ベトナムのアカデミー賞と呼ばれる映画賞で最優秀助演女優候補にもノミネートされた。
「次は語学関係のレッスンに力を入れていきたいと思っています。まだ準備段階で詳細は未定ですが、日本人向けにベトナム語の基礎を、ベトナム人向けには日本語を。エンタメ性を持ったコミュニケーション主体のものにする予定です。発音など、外国人のベトナム語学習に大きな障害となる部分を頭だけでなく、体で覚えられるようなプログラムにしたいと思っています」
文化的・ビジネス的にもベトナムと日本の間には様々なギャップがあるが、将来的に改善されればと話す中谷さん。そこで両国で活動したい、今しているという人々に、言語という分野を通じて交流の手伝いができればという。
「ベトナム語が少しでも話せると、ベトナムの方たちはとても喜んでくれます。心の繫がりができればお仕事も良い方向に進むかもしれない。ベトナムに来て約7年。この国で学んだことはとても大きいので、恩返しというか、何か貢献できればといいなと思っています」

 

 1993年大阪生まれ。大学卒業後、語学学習のために来越。大学の語学センターに通いながらYouTubeでの活動を開始。
 2022年には映画『エム・ヴァー・チン』で女優としても活躍。
 日越外交関係樹立50周年事業のプロモーションビデオにも出演している。


取材・文/杉田憲昭(Grafica Co.,Ltd.)

ベトナム語翻訳/Lưu Bích Dung
編集/Sketch Co.,Ltd.