日本で博士号を取得してアメリカへ
日本との連携を続けて、がん患者を救いたい
グエン・ティ・ビック・ハー さん
シカゴ大学博士研究員

グエン・チー・ロン

卒業生総代としてフエ医科薬科大学を卒業したグエン・チー・ロンさんは、ベトナム企業主催の「2014年ウィーチョイスアワード」において「最も影響力のある若手ベトナム人」の1人にノミネートされ、バラク・オバマ元米国大統領や安倍昭恵さんを含む世界の指導者とも会談した、がん研究者だ。東北大学で博士号を取得し、現在はシカゴ大学で博士研究員として主にがんの研究に取り組んでいる。

日本での博士課程は
人生で最も美しい思い出のひとつ

フエ出身のロンさんは高校生のときに、日本の外務省による対日理解促進交流プログラム(JENESYS)で日本に行った。
「日本は私が初めて行った外国で、ホームステイ先ではホストファミリーにとてもお世話になりました。日本は風景が美しく、料理もおいしい。その時に知り合った日本の方たちとは、今でも親しく付き合っています」
大学生の時には、日本科学技術振興機構の短期交流プログラム「さくらサイエンスプログラム」で日本に短期留学。さらにその後、博士号取得のために東北大学に留学した。大学院で研究にいそしんだ期間は、「人生で最も美しい時期のひとつ」となったと語る。当時、日本政府は2011年の東日本大震災からの復興を加速させ、2020年の東京オリンピック開催を目指していた。
「私は観光振興プログラムに参加し、各国の留学生を東北に呼び込むための活動をしていました。東北のすべての県を訪れて、とくに雄大な山々がある山形県が最も印象に残っています。これまで50回以上も訪れたほど大好きな場所です。これらの旅行には、私達と一緒に、日本人の親友が同行しました。彼女のきめ細やかな気遣いは、東北の人々をはじめとする日本人のおもてなしの素晴らしさを教えてくれました。そんな個人的な貴重な経験に加えて、留学生に東北地方の全県を紹介するというささやかな役割を果たせたと思っています」
留学生として日本で暮らす中で、日本語が流暢でなく、友達を作るのが簡単でないなどの困難もあった。しかし、ロンさんにとっては、そうした困難もまた経験のひとつ。英語が得意だったことから日本人の友人に英語を教えることで、より親しい関係を築けるなど、自分なりに生活の幅を広げていった。


 

日本留学を手助けしてくれた
日本人教授の手厚いサポートと熱心な指導

ロンさんが、がんの研究に取り組んでいるのは、ベトナムがこの分野の科学者を切実に必要としているからだ。
「科学の分野で成功するためには、自分の能力、運、助けという3つの要素を満たす必要があります」
ロンさんの指導にあたった東北大学の五十嵐和彦教授は、彼が科学研究の道を歩んでいくために尽力してくれたと話す。
「留学のための奨学金を探していたとき、何人かの教授に連絡を取りました。その中で五十嵐先生が最初に返事をしてくれたのです。先生のおかげで、博士号取得のための日本留学が実現できました。その後シカゴ大学での博士研究員としてアメリカに渡るための推薦状を書いてくれたのも先生でした」
科学研究のやり方を指導し、貴重な専門知識を時間をかけて教えてくれた教授への感謝と尊敬の念は尽きない。
「なぜ先生がこれほど献身的に援助していただけるのか、私にもわかりません。それでも先生のおかげで、私は自分の情熱を追求し続けることができます。その後、私は先生を研究的な目的と同時に、私の故郷の風景や文化を体験していただくためにベトナムに招待させていただきました」

日本の教授や研究者との協力関係の維持
ベトナムや日本などにおけるがん研究に貢献したい

「絶望的ながん患者を救いたい、という夢を実現させるために、日本やアメリカのような科学先進国で学べるのは幸運なことです」
そう語るロンさんは、がん生物学を中心に研究を続けている。2023年にはリンダウ・ノーベル賞受賞者会議において、自分の研究結果を発表する数少ない若手科学者の一人に選出された。今後もアメリカでがん研究者として働き続けるつもりだが、日本の教授たちとは専門的な話をするために連絡を取り続けている。
「現在も日本対がん協会の会員であり、これからも日本での学会や短期研究へ参加していく予定です。日本での経験があったからこそ、今の私があります。今後も日本との関係を大切にしていきたいと思っています」

 

2015年、フエ医科薬科大学卒業生総代。文部科学省(グローバル30)奨学金を受給し、2016年から2020年まで東北大学で博士課程の学生兼チューターを務めて博士号を取得した。現在はシカゴ大学の博士研究員として主にがんを研究している。

 

取材・文/Sketch Co.,Ltd.