日本エンタメをベトナムに広め
日越関係の強化に貢献する
グエン・ティ・ビック・ハー さん
エム・シー・ヴィー/ビジネスデベロップメントマネージャー、
エムネットメディア/ゼネラルマネージャー

岡本 有矢(おかもと ゆうや)

『新婚さんいらっしゃい!』、『パンチDEデート』など、日本のテレビ番組のベトナム版が現地で人気を博している。ブームを仕掛けたのはベトナムで番組の制作・配信を行う日越合弁企業「エム・シー・ヴィー/MCV」。500名ほどの社員の中で唯一の日本人である岡本有矢さんは、「日本やベトナムのエンタメを好きになってもらうことで、両国の人々の心を掴みたい」と語る。

街のエネルギーに惹かれベトナムへ
現地エンタメ業界の門を叩く

岡本さんがベトナムを初めて訪れたのは2013年のこと。バックパッカーとしての周遊旅行で、昼夜問わず街に溢れるエネルギーに圧倒された。
「バイクのクラクションなど様々な音が入り交じる街の喧騒は、まるでオーケストラのようでした。旅行の最終日には『もっとここにいたい』と思ったほど惹かれたのを覚えています。最初はバングラデシュでのインターンシップに参加したいという思いから、日本で勤めていた会社を退職し、東南アジア・オーストラリアで英語を習得したのち、インターンシップに参加しました。その後、インドア派の自分でも外に出たくなるほどエネルギーをもらえるあのベトナムに、未だ最も強い魅力を感じていたことから、2017年から本格的にベトナムでの生活を始めました」
海外で仕事をして暮らす。その人生の拠点として選んだのが、大きなインパクトを与えたベトナムだった。就職したのは現地の日系総合広告代理店。しかし、大学の専門課程は法律、職歴も金融関連が主で、営業としては経験があったものの、広告業界は未経験。ましてやベトナムのエンターテインメントに関する知識は皆無だった。
「広告やマーケティングの理論や手法をゼロから勉強しました。特にベトナムの芸能人やトレンドは、流行りの音楽を聴き、Youtube動画やテレビの人気チャンネルを毎日のように見て学びました。現地向けのマーケティングには現地の知識が必須。現地採用枠での就職だったこともあり、ベトナム人目線でベトナムを見ることこそが、自分の価値になると思ったんです」
その後、自己都合により同社を退職するが、そんな折に声をかけられたのが現在勤める「MCV」だった。培ってきたエンタメに対する知見も活かせると、2020年に入社。以来、日本をはじめとする海外のコンテンツホルダーとの窓口や、新規事業の立ち上げを担当している。しかし、ベトナム企業での業務には日系企業とは異なる難しさもあった。
「唯一の日本人社員のため社内上層部の方々と直接話すことはできますが、ベトナムの会社だからか外国人の意見が尊重されにくい風潮も正直あります。一方、外国人だからこそ出せる意見やインパクトもある。それは一種の特権でもあるので、『会社や組織のためにはこうした方がいい』と、社内でも遠慮せずにぶつけるようにしています」

 

 

違いを認め、協力体制を構築
“祈らない”コミュニケーションでより良いチーム作りを

ベトナムのエンタメやベトナム人消費者の考え方を熟知する岡本さんだが、現地のスタッフと共に仕事をしていると、母国語で情報を集められる彼らとの違いを感じることもある。
「情報の早い若い人たちは、昨日や今日といった時間軸の肌感覚でトレンドを把握しています。一方、私が情報やアイデアを出しても、実は1年前の状況をベースにしていたことも。だからこそ、自分の力だけでは100%良いものは作れない。多くの人の意見を吸い上げ、形にしていくことこそが自分の仕事だと学びました」
ベトナムの消費者に刺さるものを作るためには、チームメンバーの協力は欠かせない。ベトナムは、コミュニケーション手法や岡本さんの考え方にも変化をもたらせた。
「日本にいたときは『なぜこの人はこれをしないのか』、『普通はこうするはずなのに』と、『当たり前』が常に前提にありました。しかし、これら相手への期待は実はただの『祈り』でしかない。コミュニケーションは明確かつ自主的に表現して始めて成り立つもの。スタッフから『○○だと思ったんです』というが言葉出ると、明確にできなかった私の失敗だと思うようになりました」
クライアントが満足し、消費者、チームメンバーも満足する。「誰もが幸せになるものを作るのが私達の仕事」と話す岡本さん。そのためには社内外、年齢問わず、フェアに、祈らず、しっかりとしたコミュニケーションをとることが重要なのだ。

映画からアニメ、音楽まで
多彩なコンテンツで日本のエンタメを活性化

MCVでの事業開発の他に岡本さんは「エムネットメディア/Mnet Media」の責任者として、各種コンテンツ配給や広告代理店業務を手がけている。企業・商品ブランディング、音楽アーティスト支援、など領域は幅広いが、中でもベトナム、日本、ハリウッドなど、世界各国の映画作品のプロモーション業務に特に力を入れている。
「映画のプロモーションをクリエイティブ含めて自社で行っています。また、日本のコンテンツホルダーとのつながりもあるため、2023年からは映画の配給業務も手がけるようになりました。ベトナムで一番の映画マーケティング会社になることをミッションとして奮闘しています」
ベトナム人が日常で継続的に触れるエンタメは、PRを行いたい企業や国にとって重要な要素だ。しかし、韓国などと比べ日本のコンテンツはまだ弱い。ストーリー展開のおとなしさ、ドラマでは話数の少なさなど、ベトナム人に好まれ辛い複数の要因があるという。
「だからこそ、様々な方向からの取り組みが必要です。アニメは認知されていますが、日本のタレントやミュージシャンについてはまだまだ。そんな彼らがベトナム国内でより多く露出することで、より興味を持ってもらえるようになると考えます。日本エンタメのベトナムでの活性化は、日越関係の強化に繋がると確信しています。そのために、様々な人を巻き込み、力をお借りしながら、今後もベトナムのエンターテインメントの分野から両国の関係に貢献します」


1990年奈良県生まれ。日本の銀行を退職後、バングラデシュでインターン。2017年にベトナムの日系総合広告代理店に入社し、消費財やバイク、不動産など幅広い業界のマーケティング支援業務に従事。2020年より日越合弁企業の「エム・シー・ヴィー/MCV」、「エムネットメディア/Mnet Media」にてSNSコンテンツを核としたマーケティングや映画配給業務に携わる。

 

取材・文/杉田憲昭(Grafica Co.,Ltd.)
ベトナム語翻訳/Lưu Bích Dung
編集/Sketch Co.,Ltd.