少数民族が守り伝える匠の技
ベトナム手工芸の魅力を日本へ
グエン・ティ・ビック・ハー さん
アジア工芸社/代表

竹森 美佳(たけもり みか)

ベトナムの伝統工芸を生かした洋服や雑貨の開発・製造・販売を手がける「アジア工芸社」の竹森美佳さん。北部少数民族に惚れ込み、ファッションブランド「アンテ/ante」を軸に、ベトナムの伝統文化を日本へ伝え続けている。「ポジティブな人々にエネルギーを貰っている」、そう話す彼女のベトナムへの想いとは。

願いが詰まった織物に魅了され
自社ブランドの設立に挑戦

竹森さんのベトナムとの出会いは2010年のこと。青年海外協力隊員としてハノイへ赴任し、現地が抱えるゴミ問題などに取り組んでいた。そんな折、ベトナム北西部で手工芸品の開発を目的とするプロジェクトに参加。色とりどりの衣装を身に纏う少数民族の暮らしや文化を知り、興味を持つようになった。
「少数民族の人々が作る工芸品はどれも膨大な手仕事で作り出されるものばかり。特に黒モン族のろうけつ染めが好きで、麻から糸を紡ぎ、布を織り、その上に緻密な文様を描いていく。その素晴らしさに魅了されました」
少数民族の伝統織物は今では土産物として売られることも多い。しかし、元来は彼ら自身の衣服のために作られるもので、文様ひとつひとつにも魔除けなどの意味がある。山間部での厳しい暮らしの中で、自身や家族を守る願いが込められていると知り、感銘を受けた。そこで、彼らが持つ独特の文化が今後も続くよう、その素晴らしさを広めたいと、土産物に留まらない価値あるオリジナル商品の開発を目指し「アジア工芸社」を立ち上げた。
「服でも靴でも、気軽にオーダーメイドできるのがベトナムの良いところ。アパレルの経験はありませんでしたが、パタンナーや縫製など、ベトナムの職人達から様々なアドバイスを受けながら手探りで商品を開発しました。自分に足りない部分はベトナムの人々の助けを借りて作ったのが『アンテ』なんです」
麻布など自然由来の素材をベースに、少数民族の伝統織物をあしらったアンテの服は、主に日本で販売されている。デザインも日本人好みのゆったりとしたシルエットのものが多い。ベトナム人が好むスタイルと異なるため、職人たちの理解を得ることが難しいこともあった。
「説明を繰り返すことで、今では寸法通りに仕上げてくれますが、当初はこちらの方が良いと、勝手に注文と違う形で作られることもありました。ただ、ベトナムのZ世代はスタイルが異なるため、職人の娘さんたちが可愛いと言ってくれることも。将来的には若い人たちに受け入れてもらえるチャンスもあるのかな、と思っています」

 

 

ベトナムの人々のエネルギーが
元気と勇気を与えてくれる

青年海外協力隊に参加したり、ハノイで起業したり、本を出版したり。一見するとその行動力に舌を巻く竹森さんだが、実は極度の心配性で、リスクやマイナス面を気にしてストレスを抱えたり、足踏みをしたりする性格だという。しかし、そんな自分を変えるきっかけをくれたのもベトナムだと話す。
「ベトナムの人々はポジティブでエネルギーに満ちています。そんな姿を見ていると、仕事でもプライベートでも、なんだか悩んでいても仕方ない。絶対大丈夫。うまくいくはず、といつしか思うようになりました」
ファッションにおいても同様で、ベトナムの人々は年齢に関係なく、赤やピンクや花柄など、好きな色や柄の服を着ることが多い。好きなものに対して正直で、自分を大切にする。そんな姿に心を動かされた。
「例えば日本では黒やグレーなど無難な色合いを選ぶことが多いのですが、この国では違う。好きな色の服を着て、好きなように人生を楽しんでいるんです。今も落ち込んだりしたときは、ベトナムの人々に元気を貰っていますし、私も実践したいなと思っています」

 

伝統の技と文化を未来へ残す
交流を通じてより深い魅力を伝えたい

手仕事好きが高じて現在の活動を始めたが、少数民族を取り巻く環境の変化に危惧も感じている。
「機械化が進み、手仕事の需要自体が減ってきています。若者が街で働くようになり、後継者不足も問題です。何十年後かには、彼らの伝統工芸がなくなっているかもしれません」
そこで、竹森さんの目下の目標は、技術や文化の保存を目的とした日本でのNGOの設立だ。賛同してくれる人々とともに体系的な手仕事の確立や、暮らしの向上にまつわる支援を行う。また、旅行をはじめとした交流が増えることで、文化の相互理解も進めばと期待する。
「最初のきっかけは食や雑貨などでも良いんです。ただ、ベトナムの一番の魅力はやはり人。旅行の際はその奥にあるベトナムの人々との交流も楽しんでもらいたい。フォーを作るおばさん、土産物店の店員、ツアーガイドなど、出会う機会はたくさんあります。様々な交流を通じてこの国の人や文化など、より深い魅力を知ってもらえれば嬉しいですね」
竹森さんが手がける自社ブランド「アンテ」は、ベトナムに代々伝わる伝統工芸や手仕事を大切にしたいと「アンティーク」の語源となるラテン語から名付けられた。日本もベトナムも同じアジアの国。「アジア工芸社」では、手工芸を通じた日越の文化交流を今日も目指している。

 

1985年埼玉県生まれ。JICA青年海外協力隊として2010年にハノイへ赴任。2014年に再び渡越し、日系カフェ&ショップの立ち上げに携わる。その後、少数民族の伝統工芸を取り入れた各種商品を取り扱う「アジア工芸社」を2018年に設立。2023年6月には『食と雑貨をめぐる旅 悠久の都ハノイへ 最新版』(イカロス出版)上梓。

 

取材・文/杉田憲昭(Grafica Co.,Ltd.)
ベトナム語翻訳/Lưu Bích Dung
編集/Sketch Co.,Ltd.