ベトナムの魅力をカメラで切り取る
写真を通じた日越交流
グエン・ティ・ビック・ハー さん
フォトグラファー

種田 基希(たねだ もとき)

時にしっとり、時に爽やかに。ファッショナブルでありながら、シネマティックな色合いと南国の空気感を纏ったエキゾチックな人物写真が魅力の写真家・種田基希さん。現地の人々が見せる仕草や表情、ファインダー越しにそれらと日々向き合い続ける彼にとってのベトナムの魅力とは。

現地写真家の作品に衝撃
職を辞し、一路ベトナムへ

「北海道の写真館で勤務していた時にできた友人が、ベトナム人の技能実習生だったんです。そこでベトナムの写真事情に興味がわき、現地の写真コミュニティを調べてみると凄い写真家がたくさんいました。彼らのスタイルは日本とは全く違う。そこで、この国をもっと知りたいと退職し、2020年にホーチミン市へ移住しました」
七五三や家族写真など、写真館で日本スタイルの撮影に明け暮れていた種田さん。日本ではふんわりとした雰囲気の写真が流行りだったが、ヨーロッパ風のメリハリあるスタイルと、中国や韓国風のポップな色彩を合わせもつベトナムの写真に衝撃を受けた。そこでコミュニティに連絡を取ると、「よかったら話をしよう」、「スタジオをぜひ見に来てよ」と好感触。新たな出会いに胸を膨らませ、ベトナムの地を踏んだ。
「全てが新鮮でした。日本では写真は綿密に計画を立てロジカルに撮るもの。しかしここではスタジオであっても感覚的に、その場の雰囲気や状況に合わせて自由に組み上げていました。ホーチミン市には小さなスタジオが大量にあり、それぞれがコンセプトやテーマに沿った創作活動をしている。利用料金も手頃で、気軽に撮影できる環境が整えられていることに驚きました」
ベトナムで自身の作品を作るにあたり、モデルはベトナム人を起用した。フェイスブックで公募すると、すぐに100人程の応募者が集まった。
「内容を読んでいないのか、募集要項に沿わない人からの応募が多く、選考が厳しい時もありました。しかし、写真好きな国民性からか、アマチュアながら高いスキルを持つ人も多い。ポージングやセンスに違いがあるため、指示出しには今も苦労しますが、得意なポーズを厳選するなど、モデルさんの個性を生かすような撮影を心がけています」
ヘアメイクや衣装など、撮影には他のサポートスタッフの存在も欠かせない。
「伝手も何もない状態でしたが、モデルさんからリレーする形で紹介してもらうなどしています。口コミなど、ベトナムのコミュニティの強さに助けられることは多いです。自分から発信すれば何かの反応はある。臆せず自分から連絡をして、チャンスを掴むことが大事だと教えられました」

 

 

挑戦を繰り返し技術を向上
ベトナムの環境を生かした新たな作風も

写真館での勤務時と比べて撮影頻度は減ったものの、ベトナムでの創作活動は自身の技術や作風に変化をもたらした。
「様々なジャンルや環境に挑戦することが多かったので、まず撮る写真のパターンが増えました。日本時代にお世話になったカメラマンからも上手くなったと言われます。また、写真の趣向も変わりました。以前は人物を主体としたベーシックな写真館風のスタイルが得意でしたが、今はレトロな建物など、背景や環境を交えた映画的な雰囲気で撮ることが多くなっています」
2022年に開催された「日IN越文化祭」でフォトコーナー賞に輝いた作品『訪ねた人はすでにいなくて』もそのひとつだ。ホーチミン市内の古い団地の部屋で佇む女性を撮ったノスタルジックな作品で、1枚で1つの世界観をつくり上げている。
「正直なところ、SNSへの投稿などを目的とした女性には受けないこともありますが、一部の写真好きには絶賛されたりもします。現在チャレンジしているのは、昭和レトロのように昔のサイゴンを彷彿させるもの。ベトナムの若い人たちの間でもレトロがブームになっています。そこで、次回は完全にそのスタイルに振り切った作品も作ってみたいと思っています」

 

目指すはベトナム人アーティストとのコラボ
仲間と共に新たな写真表現を求めて

個人での撮影を主とする種田さんだが、今後は現地ベトナム人とのコラボレーションにも力を入れる予定だ。たとえばヘアメイクやアートディレクター、モデルなど、ベトナムにも優秀なアーティストが多くいる。その中でカメラマンとして、機会があればチームを組んで活動してみたいと意気込みを見せる。
「企画段階ではありますが、ベトナムの伝統衣装アオザイと着物を組み合わせた新感覚のファッションフォトにも挑戦する予定です。そうして撮りためたポートレートを集めた個展も開催したいと思っています」
また、日越の写真家同士がより刺激し合える機会があればとも期待する。
「ベトナムにはカメラメーカーの公式フォトグラファーなど、世界で活躍する才能豊かな写真家が増えてきました。クリエイターの成長速度が速く、アイデアも豊富。日本にはない自由度がこの国にはあります。日本でベトナムの作品を、ベトナムで日本の作品を展示するような写真展でもいい。互いに交流し学びあい、新しい刺激をもらう機会があれば、より楽しくなると思いますね」

 

1995年北海道生まれ。学生時代から舞台役者として活動。その記録を撮るうちに写真に魅了される。写真館でカメラマンとして勤務した後、ベトナムへの興味から2020年に渡越。人物を中心にベトナムならではの写真表現を追求している。作品『訪ねた人はすでにいなくて』は、2022年度「日IN越文化祭」でフォトコーナー賞を受賞した。

 

取材・文/杉田憲昭(Grafica Co.,Ltd.)
ベトナム語翻訳/Lưu Bích Dung
編集/Sketch Co.,Ltd.