日本との20年の深い関係で
成功するビジネスマンのお話
グエン・ティ・ビック・ハー さん
エイチ・エス・シーインベストメント/創業者

山河ド・フー・ソン

日本国籍をもつビジネスマンの山河ドー・フー・ソンさんは、在日ベトナム人コミュニティの大先輩と知られている。人生の半分近くを占める時間を日本で過ごしたソンさんにとって、人生とキャリアは日本で形作られた。日本との約20年にわたる縁について話を聞いた。

時代の流れに乗る
日本で貴重な体験を

1990年代の後半から国際交流を促進してきたベトナムにおいて、日本語人材はまだ稀少な存在だった。「日本語ができたら、絶対にいい仕事に就ける」と踏んだソンさんは1998年にハノイ貿易大学に入学し、外国語科目に日本語を選んだ。
「私はもともと好奇心が強いこともあり、すぐに日本語を覚え、日本文化に興味を持つようになりました」
2002年には、ハノイ貿易大学と大阪国際大学の文化交流プログラムの一環として、日本に半年間、留学することとなった。
「関西国際空港に着いたときから、日本はもはや”本で知っていた国”ではなく、私の現実となりました。大阪では日本人のホストファミリーと暮らしました。大阪の人は性格はとてもリベラルで、ベトナム人との共通点がたくさんあると感じしました。とくにホストファミリーには5人の子どもがいて、ベトナムの大家族と同じような雰囲気だったので、うまく溶け込むことができました(笑)」
ホストファミリーのお父さんは地元の相撲コーチだった。相撲クラスに一緒に参加し、まわしの付け方や基本ルールなどを学び、大会にも参加したソンさん。日本での生活は充実したものとなり、半年の留学期間はあっという間に終わりを迎えた。ベトナム帰国した後も、「日本へ戻りたい」という気持ちは強く、留学のための奨学金と日本での仕事を探し始めた。
「そんな時、たまたまに国際協力機構(JICA)の炭鉱ガス安全管理センターのプロジェクトメンバー募集のチラシを目にしました。日本で働くこととなるので私の希望にぴったりだと思い、応募しました。無事採用されて、2004年から日本で働き始めました」
ソンさんはベトナム語通訳者として、石炭生産の技術移転のために日本に派遣されたベトナム人エンジニアをサポートした。
「ベトナム人のみなさんに知識を正確に伝えるためには、日本の専門家が教える知識を私が最も理解していなければなりません。興味深い技術的な知識を身につけることに加えて、17トンのトンネル掘削機の運転を見学し、北海道の海底300メートルの炭鉱現場を訪問するなど、この上なく貴重な経験をしました。このプロジェクトのメンバーの1人であったことは大変光栄に思います」

 

 

チャンスを素早く掴む
経験を活かして開業

このプロジェクトで2年間の勤務を終えた後、専門の貿易知識を活かすため、ソンさんは2006年に日本の流通小売会社に入社。7年間にわたりスーパーの運営や新店舗の立ち上げ、商品輸入などの経験を積んでいくうち、ビジネスチャンスを発見した。
「当時は会社がチェーン展開するスーパーで、東南アジア諸国からの商品の仕入れを担当しました。ベトナム製のインスタントコーヒーやインスタントラーメンなどが日本のスーパーに売れるようにするのは大変でした。ベトナム製品の原材料などが日本の厳しい食品安全と衛生要件を満たしていないため、日本市場に参入するのが難しかったのです。また、ベトナム市場にはバラエティ豊かな日本製品がまだ少なかったことも知りました。これこそチャンスだと思い、日本で知り合ったベトナム人の友人と日本で貿易会社を設立しました」
ベトナム製品を日本に持ち込むために、ソンさんはベトナムのベトナム企業に直接会いに行き、機械、製造工程、さらには原材料を変更するよう提案した。品質改善には多くの時間と費用を要するため、この提案に同意するベトナム企業は多くなかった。それでも諦めずに、ベトナム企業が日本の基準を満たす製品を生産できるよう、各工場に日本人の専門家を招待し、技術移転できるよう務めてきた。ソンさんとパートナーの地道な努力は実を結び、立ち上げた会社は順調に成長を遂げ、今では日本に貿易会社1社と、ベトナムに貿易会社3社を展開している。

日本でベトナム文化を広めたい
日本企業にとってより良い投資環境を

 

ソンさんは日本とベトナムでの経済的な交流だけでなく、日本にベトナム文化を紹介したいと常に考えてきた。
「2020年に福岡在留ベトナム人協会の初代会長となりました。ベトナムの文化を広めるため、社会貢献活動として在福岡ベトナム総領事館と共同で福岡市にて『ベトナム旧正月祭り』を毎年開催しています」
ビジネス面においては、日本の中小企業がベトナムに投資する際の困難を理解しているからこそ、日系企業にとって良い進出環境が整うことを願っている。
「ベトナム人の私たちが創業した当社はベトナムに投資するにあたって、ベトナムの政策がどのように活用できるかをよく理解しています。一方、日本の中小企業は言語や政策面において多くの壁に直面しており、ベトナム市場での展開には依然として多くの困難が残っています。ベトナムがより開かれた政策を作り、特に日本の中小企業にとってより友好的な投資環境が整っていくことを願っています」


1998年にハノイ貿易大学に入学し、日本語の勉強を始める。2002年から大阪国際大学に留学、2004年に国際協力機構(JICA)の炭鉱ガス安全管理センターのプロジェクトメンバーとして日本語通訳を担当。7年間の流通小売企業での勤務を経て独立し、現在は貿易投資企業グループのエイチ・エス・シーインベストメント(HSC Investment Corp)の会長とエイチ・エス・シージャパン(HSC JAPAN)のCEOを務める。

 

取材・文/杉田憲昭(Grafica Co.,Ltd.)
ベトナム語翻訳/Lưu Bích Dung
編集/Sketch Co.,Ltd.