ミシュランが認めたソムリエ
ベトナムは人生の全てを変えた
グエン・ティ・ビック・ハー さん
ルア/ヘッドソムリエ

山本 遊(やまもと ゆう)

2023年にベトナムで初めて発行された『ミシュランガイド ハノイ ホーチミンシティ』。セレクテッドに選ばれたビストロ「ルア/LỬA」で、ヘッドソムリエとしてワインの多彩な楽しみ方を提案しているのが山本遊さんだ。山本さんは店と共に同誌でベトナム初の「ソムリエアワード」を受賞。世界が認めたワインの伝道師がベトナムを語る。

ソムリエとして掴んだ栄冠
ワインの新たな価値観をベトナムに

2023年6月にハノイで開催されたミシュランガイドの授賞式。そこで山本遊さんの名は一躍国内外に轟いた。特別賞のひとつ「ソムリエアワード」が贈られたのだ。ソムリエとしての技術や知識のほか、ベトナムで知られていない数々のワインを意欲的に取り入れるなど、ワインの普及に対する貢献が認められての受賞だった。
「本当に人生が変わる程の影響がありました。日本人だけでなく、ベトナム人や各国の旅行者など、店のお客様も増えました。当然、高い期待が寄せられますが、それも良いプレッシャーと感じています」
日本でソムリエとして約15年間にわたり飲食業界の第一線を走ってきた山本さんだが、ベトナムへ渡ったのは2021年のこと。ミシュラン星付きレストランで勤務し、海外で働くチャンスを伺っていた折に受けた、ビストロ「ルア」オーナーシェフからの誘いがきっかけだった。しかし、いざ渡越してみると日本や他国との違いを感じることもあった。
「当初のベトナムには、ワインの種類がまだ多くありませんでした。しかし、よく探してみると、現地ではあまり知られていないけれど、海外で良いとされる掘り出しものが手に入ることもあるんです。昨今のベトナムはワインブーム。今後は世界的な品が入り、種類も増えてくると期待しています」
人々の味の趣向にも特徴がある。ベトナムでは高級で重いクラシックワインの味に馴れている人が多く、特にボルドーやブルゴーニュのようなフランス産ワインの認知度が高い。そのため新しい品を店のワインリストに載せることが難しく感じたこともあるという。
「価値観を変えるためには新しいことをしなければいけない。そこで、今はフランスだけでなく、ポルトガルやニュージーランド、オーストリアなど各国のワインも積極的に取り入れています。ナチュラルワインや日本人醸造家がフランスで手がけるワインなど、新しく良いワインはたくさんある。高級ワインに馴れた人に、同じようだが全く違う国のワインをあえてぶつけたりすることも。すると、今までにない経験と褒めて貰えたりもする。そんな時はソムリエとして本当に嬉しい。ベトナムにも、新しいワインを受け入れる土壌が育ちつつあると実感しています」

 

 

「ベトナムに来て本当に良かった」
国際人としての自分を発見

ベトナムのワイン業界に新風を巻き起こしている山本さんだが、日本在住時によく訪れていた国はアメリカなどの欧米諸国が中心。渡航前にベトナムの知識はほぼ無く、海外での就職も初めてだった。
「ベトナム暮らしの中で、改めて気づかされたことがあります。例えばベトナム人だけでなく、ここには日本人の約10倍とも言われる多くの韓国人も住んでいる。日本にいる時は気づけませんでしたが、私も彼らも同じアジア人。そんな彼らに囲まれて生きる中で、同じ国際人として肩を並べて認められるような人間に私もなりたいと思うようになりました」
様々な国の人が行き交うホーチミン市。それだけにチャンスも無数にある。
「日本でソムリエを続けていても、業界自体が飽和状態。一方、この国にはまだゼロからイチを作る余地があり、前向きになれる。ワインが浸透していない国をワインのある国に変えることにやりがいを感じます。だからこそ、私もひとりの国際人として、この国にどんな形でも良いので貢献できればと思っているんです」

 

ベトナム人ソムリエの受賞を目指し
地位向上とワイン業界の底上げを

ビストロ「ルア」には、彼同様にワイン好きのスタッフが集う。しかし、ベトナムには本格的なワインスクールが少なく、ワインの価格が高いため個人で味を試すのも難しい。そこで、店では積極的にテイスティングしてもらうなど、ソムリエを目指す若い人々へサポートも行っている。
「コンクールに挑戦したり、休みの日に他店でペアリングを提供したり、学んだことをすぐにアウトプットし成長する姿に情熱を感じます。業界が成熟していないからこそ、皆が活躍できるチャンスがある。若いソムリエが生まれ、その地位が向上し、ベトナムのワイン業界自体が底上げされる。そしてやはり次の受賞はやはり、自国の人に獲って欲しい。そのために私ができることは、できるだけ実践していくつもりです」
同時に、日本のソムリエや飲食関係者がベトナムを訪れたり、ベトナム人ソムリエが日本を訪れたりと、日越間で違いに情報交換できる場があればとも話す。
「日本ではベトナム料理が流行っているので、日本人ソムリエがベトナム料理とのペアリングをするのも良いかも知れません。日本の若いソムリエがベトナムへ来て経験を積んでもいい。国に伸び代がある上に、食文化も近いので海外で挑戦したい人に適した国だと思います」
「ベトナムのワインの未来は明るい」と期待を寄せる山本さん。ベトナムで人生を変えたワイン伝導の旅はこれからも続く。

 

1983年大阪生まれ。日本のミシュランレストランなどでソムリエとして活躍。2021年の渡越後はビストロ「ルア」のヘッドソムリエとしてワインの普及に力を注ぐ。2023年、ベトナム初のミシュランガイドで「ソムリエアワード」を受賞。日本で100人強しかいない国際ワイン資格WSETレベル4ディプロマの保有者でもある。

 

取材・文/杉田憲昭(Grafica Co.,Ltd.)
ベトナム語翻訳/Lưu Bích Dung
編集/Sketch Co.,Ltd.